夜逃げ

勧誘

友人がエレキギターを背負って道を歩いていると

「うちで演奏しないかい?」と見知らぬ人に声をかけられた

友人が「一人じゃ怖いから一緒に来てくれ」と言うのでついていった

車で送られた先はフィリピンパブだった

いや、どういうことよ

腕前もわからない、何のジャンルが弾けるかもわからないギタリスト連れてきて何を弾けというのか

こんな周りに街灯もなく、たんぼしかない田舎のフィリピンパブでそんな演奏望むやついないだろ

と思っていると

「BOØWYやって欲しいんだけど」

なるほど、BOØWYね

世代じゃないけどいけるか

ベースとギターはもういるとしてあとはドラムとボーカルかなどと考えていると

「時給は1000円でタダで住み込みでもいいよ

家から車で40分くらいだから住み込みやな

友人もやる気だったのでOKし、とりあえずこれ着てみてと服を渡された

ボーイやないか

でも演奏してって言ってたしな

ボーイじゃないだろ

「お酒の作り方も教えるから」

ボーイやないか

もはやギターなど関係ない

ただボーイをしてほしいだけだった

まあ人生経験かと思ってやってみることにした

出稼ぎの女の子たち

店の2階に3部屋あり、そこに住んで働いてる女の子達を紹介してもらったが、10人中1番人気は1人しかいない中国人らしい

フィリピンパブとはいったい、、、、

部屋ないんかい

風呂は女の子の部屋の使って、寝るのはホールのどこでもいいよと言われた

なるほど、椅子の上で寝ろと

上等じゃねえか

客のほとんどが輩

「あの顔が怖いお客さん何してる人なの?」と女の子に聞くと

「アノヒトこれヨ」

といいながらほっぺたを指で縦になぞった

ヤクザやないかい

こんなやり取りが数回続いた

恐そうな人が多かったが、何かされたり嫌な態度とられたりとかもなかった

ハゲたおじさん

ある日、開店前にきたスーツを着たハゲたおじさんに怒られた

「ボーイがかっこつけんなよ、髪切れ」

と言われたので

「了解でーす」

とややふてくさりながら答えると帰っていった

そもそもあのハゲ誰だよと、女の子に聞くと

「ママのカレシダヨ、オーナー、アノヒトコレよ」

ヤクザやないかい

翌日すぐに髪を切った

お待ちかねの給料日

驚くことに休みは1日もなかった

14時くらいにおきて店の準備したりして、17~24時まで働いて後片付けという生活

友人といたこともあってか休みなしは別になんともなかった

そして待ちに待った給料手渡された

店の準備とか後片付けみたいな時間外労働入れたら時給安いけど、1ヶ月休みなしだから20万ちょいだろうか

そう思い給料袋を開けたとき

2人に電流走る

74623円

どういうことだってばよ

瞬間、色々考えた

間違って家賃もとられたとして5万だとしよう

食費も5万ひかれたとしよう

にしても74623円って少なくないか?(この間0.6秒)

僕らは内訳だとかそんなん気にしないで心にきめた

バックレよう

夜逃げ

店を閉めたあと、みんなが寝静まる朝の4時頃まで待ち

「お世話になりました」と書いた紙を貼って、入口に飾ってある僕らの写真を回収して店をでた

ボーイの写真を飾ってあったのは今でも謎だ

余談だが僕らの前にいたボーイは、レジから10万円ぬいて逃げたらしい

そう考えると良心的な夜逃げである

外は真っ暗

みんな寝ている時間だが、女の子たちに見つかる可能性もある

気分はメタルギアのスネークだ

友人とあうんの呼吸で合図を出し合い敷地を抜け出した

そこは驚くほどの真っ暗闇だった

街灯もなく店もない田舎道は想像以上に暗かった

さらに着替えの入ったでかいバッグを持ってたのでかなりしんどかった

道も分からず大通りを目指し、斜面で滑り川の中に落ちそうになりながらも歩き続けた

途中で車が通ったらヒッチハイクしようとも考えたが1台も走ってなかった

2時間くらい歩き、少し明るくなったおかげでようやく周りが見えはじめてきた

そしてついに

ま、街だ!

人生で1番喜んだ瞬間だったかもしれない

そして街に着いた僕らは、タクシーよりも先にバス停を見つけた

田舎のバス停に、大きなバッグを持って疲れ果てた2人を見て、じいちゃんばあちゃんが僕らをジロジロ見て思議そうな顔をしていた

とりあえず僕の家に帰り、友人に

僕「マジで疲れたな、休んでから帰る?」と聞くと

友人「飯でもいく?」と聞かれたので

僕「パチンコでも行くか」と返した

友人「よし、行くか」

ついさっきまでビクビクしながら夜道を歩いていた2人とは思えない

数時間後、2人はほぼ文無しになった

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